非常に混同されやすい「遠隔画像診断サービス」と「インフラサービス」。まず遠隔画像診断サービスは、専門医による読影(診断行為自体)を指し、インフラサービスは、それを支える通信・システム基盤を指します。医療施設でこれらを導入するにあたって、こうした違いは明確に区別しておかなければなりません。そのためここからは、それぞれの特徴をより具体的に解説しますので、導入を検討中の方々は、ぜひ参考になさってください。
遠隔画像診断インフラとは
遠隔画像診断サービスとインフラについて、くわしく解説します。
遠隔画像診断サービスの概要
遠隔画像診断サービスとは、医療機関で撮影されたCT・MRI・レントゲンなどの画像を専門の放射線科医などに送り、解析結果を提供してもらう仕組みのことです。医療機関は画像データを共有するだけで、院内に画像診断専門医が常駐していなくても精度の高い読影が受けられます。患者の移動負担を減らすとともに、地域医療や夜間・休日対応を効率化できるのが大きなメリットです。
遠隔画像診断は1980年代後半から研究が進められ、1990年代にインターネットが普及したことで実用化が広まりました。当初は大病院と地方の医療機関を結ぶ形で運用されていましたが、2000年代に入ると、通信技術が向上したことを受け、高精度な医用画像を遠隔でやり取りできるようになり、多くの医療機関にて導入が進められました。
厚生労働省のデータによると、遠隔画像診断サービスを利用する病院の数は年々増加傾向にあります。とくに緊急対応が求められる医療機関や専門医不足の地域医療で導入が進んでおり、医療格差を縮める助けとなっています。
遠隔画像診断インフラとは?
遠隔画像診断インフラとは、医用画像を安全かつ迅速に送受信するための土台となるシステム・通信環境の総称です。具体的には、PACS(画像管理システム)、DICOM通信、クラウドサーバー、VPNなどの安全なネットワーク環境、データ保存基盤、アクセス制御などが含まれます。
これらは単なるファイル転送ではなく、医療用画像という大容量データを扱うため、迅速かつ安定的なサービスが求められます。医療現場においては、診断の正確性とスピードが重要となるため、インフラが整っているかどうかはサービスの質を左右する重要な要素となります。
また、個人情報を取り扱うことから、データの暗号化やアクセス制御などのセキュリティ対策も欠かせません。
遠隔画像診断サービスとの違い
「遠隔画像診断サービス」は読影医がレポートを作成する医療サービスであるのに対して「遠隔画像診断インフラ」はそのサービスを成立させるための技術基盤です。たとえば、クラウドやVPNなどを用いて画像を迅速かつ確実に送る仕組みはインフラの役割に該当します。
両者は密接に関係していますが、役割が異なります。医療機関では遠隔画像診断サービスとインフラをひとくくりにするケースも多いですが、導入を検討するにあたっては、サービスの質とインフラの信頼性を別々に評価する必要があります。
遠隔画像診断サービスのインフラ選定ポイント
遠隔画像診断サービスのインフラを選ぶ際のポイントを解説します。
セキュリティ対策
医療画像は個人情報そのものでもあるため、インフラに求められる最も重要な要素がセキュリティです。データ転送時の暗号化、VPNによる通信経路の保護、アクセス権限の厳格管理、ログ監査、ファイアウォールの設定など、多層的な防御が必要となります。
また、遠隔画像診断サービスには「オンプレミス型」と「クラウド型」の2種類があります。オンプレミス型とは、社内にサーバーや通信回線、システムを構築し、運用する形態のことです。一方、クラウド型は、オンライン上のサーバーで提供されているシステムやサービスを、インターネットを介して利用する形態を指します。
オンプレミス型のシステムは、自社サーバーと社内ネットワークを利用する仕組みなので、情報漏えいのリスクが少ないというメリットがあります。機能拡張により、セキュリティ強度を自由にコントロールできます。
クラウド型の場合、ベンダー側でセキュリティ管理を行うため、自社でセキュリティ強度をコントロールすることはできません。そのため、クラウド利用の場合は、医療情報ガイドラインに準拠しているかどうか、データの保存場所が国内かどうかといった確認が欠かせません。
スケーラビリティ
対応力の高さやカスタマイズ性も重要なポイントです。さまざまな病院・クリニックとの連携実績があるベンダーであれば、豊富なノウハウにもとづく対応力に期待できます。
また、医療機関によって必要とされる対応やシステムは異なるため、柔軟に対応できる設計が求められます。たとえば、すべてのサービスを自社開発しているベンダーであれば、柔軟なカスタマイズができることが多く、医療機関ごとのニーズに合ったシステム導入を実現しやすいでしょう。
さらに、導入の負担を最小限に抑えたい場合には、提案から導入、導入後の支援まで一貫対応してくれるサービスを選ぶのがおすすめです。これまでの対応実績やサポート内容を確認し、最適なインフラを選びましょう。
運用サポート体制
インフラは導入すれば終わりではなく、安定稼働させるためのサポートが不可欠です。医療現場ではトラブルによる遅延が診療に直結するため、障害対応のスピード、問い合わせ窓口の体制、遠隔サポートの有無などが重要です。
また、システム更新やセキュリティパッチの適用、バックアップ管理、障害予防のメンテナンスなど、日常的な運用を任せられる体制が整っているかどうかもチェックが必要です。医療機関側のITスキルに依存せず運用できる体制が望まれます。
遠隔画像診断サービスとインフラの将来展望
遠隔画像診断サービスは、専門医不足の解消や医療の効率化ができるといったメリットがある一方で、運用にあたっては課題も存在します。ここでは、解決すべき課題と今後の展望について解説します。
セキュリティとプライバシー保護
今後ますます医療データのデジタル化が進むなかで、セキュリティとプライバシー保護はより重要なテーマとなります。とくに遠隔画像診断サービスでは、オンラインで個人情報のやり取りが行われるため、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクを最小限に抑えることが重要です。
厳格なアクセス管理や暗号化通信の実施はもちろんですが、さらに強固なセキュリティ対策が求められます。とくに、患者情報の管理に関しては、プライバシー意識を高く持ち、しっかりと安全性を確保するための取り組みが欠かせません。
通信環境の整備
遠隔画像診断の活用拡大には、通信環境の向上も不可欠です。高速かつ安定した通信環境がなければ、画像データの送受信に時間がかかり、診断が遅れたり、画像品質が低下したりする恐れがあります。とくに、離島や地方の医療機関では、通信インフラの整備が不十分であることから、遠隔画像診断サービスのスムーズな運用が難しいケースが少なくありません。
今後、5Gや光回線の普及により高速・大容量通信がより一般化すれば、画像送信の時間短縮やリアルタイム性の向上が期待できます。地方医療機関でも品質の高い診断サービスが受けやすくなることで、地域医療格差の解消に寄与する可能性もあります。通信の安定性や遅延の少なさは、診断の精度やスピードに大きく影響するため、今後も重要なインフラテーマとなるでしょう。
AI技術との連携によるさらなる発展
遠隔画像診断サービスの運用にあたっては、セキュリティリスクや通信環境の整備といった課題もありますが、AI技術との連携によりさらなる発展が期待されています。AIによる画像解析技術は急速に進化しており、今後はより高度でスピーディーな診断が可能になると想定されています。
AIが病変の自動検出を行うなどの診断サポートを行うことにより、放射線科医の負担が軽減されるとともに、見落としのリスクも減少します。画像解析の精度と効率が高まることで、インフラ面でも大量のデータの処理・保管方法がさらに高度化すると考えられます。
ただし、AIはあくまでも補助的な役割であり、最終的な診断は医師が行わなければなりません。安全性と有効性を確保するための制度整備も進むことでしょう。